ベクトルは「向きのある量」
内積・内分点・交点問題を一本の流れで理解する
ベクトルの授業をしていて気づくのは、成分の計算はできるのに、図形の問題になると手が止まる生徒が多いことです。(3, 4) の大きさが 5 になることはわかるのに、「三角形の中の2本の線の交点を求めよ」と言われると、何から書けばいいかわからない。ベクトルを「矢印の絵」か「数字の組」のどちらか片方でしか見ていないことが原因でした。
共通テストの数学II・B・Cでは、ベクトルは選択問題(数列・統計的な推測・ベクトル・平面上の曲線と複素数平面の4題から3題を選ぶ)の1つです。図形の問題を計算で解ける強力な道具なので、流れをつかめば安定して得点できる分野です。
ベクトルは「どっち向きに、どれだけ」
重い荷物を、2人でロープを使って引っぱる場面を考えます。1人は真東に、もう1人は真北に引くと、荷物はその間の北東っぽい方向に動きます。引く力には「強さ」だけでなく「向き」があり、2つの力を合わせた結果は、ただ強さを足し算しただけでは決まりません。
このように「向き」と「大きさ」をセットで持つ量がベクトルです。東向きに 3、北向きに 4 の強さで引くと、合わせた力は成分で (3, 4)、その大きさは三平方の定理で √(3²+4²)=5 になります。強さは 3+4=7 ではなく 5。向きがちがう力は、打ち消し合う分があるからです。
ベクトルの和は「つなげた矢印」
a+b は、a の矢印の先に b の矢印の根元をつないだときの「スタートからゴールまで」の矢印。成分で書けば、x 成分どうし・y 成分どうしを足すだけでよい。
内積は「進みたい向きに、どれだけ効いているか」
荷物を地面に沿って東へ動かしたいのに、ロープを斜め上に引いてしまったとします。力の一部は荷物を持ち上げる向きに使われ、東へ動かすのに効くのは一部だけです。たとえば 10 の力で、地面と 60° の向きに引くと、東向きに効くのは 10×cos60°=5 です。
この「ある向きにどれだけ効いているか」をかけ合わせたものが内積です。
- 定義:a・b=|a||b|cosθ(θ は a と b のなす角)
- 成分で:a=(a₁, a₂)、b=(b₁, b₂) なら a・b=a₁b₁+a₂b₂
内積で角度と垂直がわかる
a=(1, 2)、b=(3, 1) のなす角を求めてみます。a・b=1×3+2×1=5、|a|=√5、|b|=√10 なので、cosθ=5÷(√5×√10)=5÷√50=1/√2。よって θ=45° です。
特に大事なのが「垂直なら内積は 0」です。cos90°=0 だからです。たとえば (2, 3) と (3, -2) の内積は 2×3+3×(-2)=0 なので、この2つは垂直だとすぐわかります。図形の問題で「垂直」と出てきたら、「内積=0」の式に置き換えるのが定石です。
大きさの問題は「2乗して展開」
|a+b| のような大きさは、そのままでは計算できません。2乗すると内積で展開できます。|a+b|²=|a|²+2a・b+|b|²。これは (x+y)²=x²+2xy+y² と同じ形なので、文字式の展開の感覚で扱えます。
位置ベクトルと内分点
点の位置を、基準の点 O からのベクトルで表したものが位置ベクトルです。点 A、B の位置ベクトルを a、b とすると、線分 AB を m:n に内分する点 P の位置ベクトルは次の式になります。
p=(n a+m b)÷(m+n)
「m:n に分けるのに、a には n、b には m を掛ける」のが混乱しやすいところです。P は B より A に近いほど a の影響が強くなるはずなので、「遠い側の比を掛ける(たすきがけ)」と覚えると間違えません。
実際に計算してみる
A(1, 2)、B(7, 5) で、AB を 2:1 に内分する点 P を求めます。p=(1×(1, 2)+2×(7, 5))÷3=(1+14, 2+10)÷3=(15, 12)÷3=(5, 4)。A から B へ x は 6、y は 3 進むので、その 2/3 だけ進んだ (1+4, 2+2)=(5, 4) と一致します。
| 点 | 位置ベクトル |
|---|---|
| AB の中点 | (a+b)/2 |
| AB を m:n に内分する点 | (n a+m b)/(m+n) |
| 三角形 ABC の重心 | (a+b+c)/3 |
交点問題は「2通りに表して、係数を比べる」
共通テストのベクトルで最もよく出る流れがこれです。2本の線の交点 P を、それぞれの線の上にある点として2通りに表し、係数を比べて決めます。
例題:三角形の中の交点
三角形 OAB で OA=a、OB=b とします。辺 OA を 2:1 に内分する点を C、辺 OB の中点を D とし、線分 AD と BC の交点を P とします。OP を a、b で表しましょう。
まず OC=(2/3)a、OD=(1/2)b です。
① P は AD 上の点なので、AP:PD=s:(1-s) とおくと OP=(1-s)a+(s/2)b
② P は BC 上の点なので、BP:PC=t:(1-t) とおくと OP=(2t/3)a+(1-t)b
a と b は 0 でなく平行でもないので、同じベクトルを2通りに表したら、a の係数どうし、b の係数どうしが等しくなります。
- a の係数:1-s=2t/3
- b の係数:s/2=1-t
2つ目から t=1-s/2。これを1つ目に代入すると 1-s=(2/3)(1-s/2)=2/3-s/3 となり、1/3=(2/3)s から s=1/2、t=3/4。よって OP=(1/2)a+(1/4)b です。②に t=3/4 を入れても (2/3)×(3/4)a+(1/4)b=(1/2)a+(1/4)b となり、一致します。
係数比較の前に「0でなく、平行でない」を確認
係数を比べてよいのは、a と b が 0 でなく、平行でもないとき。答案や記述ではこの一言を書く習慣をつけておくと、条件の見落としが減る。
|a| = 2、|b| = 3、|a + b| = 4 のとき a·b を求める途中式として正しいのはどれか。
大きさの条件は2乗して展開します。|a+b|²=|a|²+2a・b+|b|² に値を入れると 16=4+2a・b+9 なので 2a・b=3、a・b=3/2 です。|a+b|² を |a|²+|b|² としてしまうのは、真ん中の 2a・b を落とす典型的なミスです。
よくある質問
Q. ベクトルは図で考えるのと成分で考えるの、どちらがいいですか?
A. 問題文に座標が与えられていれば成分、三角形や平行四辺形の辺の比が与えられていれば a、b を使った位置ベクトルで考えるのが基本です。成分の問題でも、まず図を描いて向きと大きさの見当をつけておくと、計算ミスに気づきやすくなります。
Q. 内積の値がマイナスになりました。間違いですか?
A. 間違いとは限りません。内積は |a||b|cosθ なので、なす角が 90° より大きい(鈍角の)ときはマイナスになります。荷物の例でいえば、進みたい向きと逆向きに引いているので「効き目」がマイナス、というイメージです。
Q. 交点問題で、s や t をどう置けばいいか迷います。
A. 「線分の比を s:(1-s) とおく」と決めておけば、どの問題でも同じ形で書けます。OP=(1-s)×(始点)+s×(終点) の形です。比の置き方を毎回変えると混乱するので、自分の型を1つに決めて練習しましょう。
まとめ
✦ ベクトルは「向き」と「大きさ」のセット。和は矢印をつなげたもの
✦ 内積は「ある向きにどれだけ効いているか」。垂直なら内積は 0
✦ 大きさ |a+b| は2乗して展開する
✦ 内分点は「遠い側の比を掛ける」。p=(n a+m b)/(m+n)
✦ 交点は2通りに表して係数を比べる。その前に「0でなく平行でない」を確認
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